あなたの街にも、地元のスポーツチームはありますか?勝利に歓喜し、敗北に涙する。それはプロの世界だけの話ではありません。現在、日本のプロサッカーリーグ「Jリーグ」に所属するチームを持たない数少ない県の一つ、三重県。その地で、「三重県初のJリーグチーム」を目指し、悲願のリーグ初優勝を成し遂げたクラブがあります。その名は「FC.ISE-SHIMA」。
しかし、その栄光の裏側にある選手たちの日常やクラブの姿は、多くの人が想像するサッカーチームのイメージとは大きくかけ離れています。彼らの物語は、単なるスポーツの記録ではなく、地域社会と深く結びついた、驚きに満ちた人間ドラマです。
この記事では、FC伊勢志摩の知られざる5つの真実を紐解き、彼らの挑戦がいかに特別で、応援したくなるものであるかをご紹介します。
選手たちのもう一つの顔:真珠加工と福祉施設で働くアスリート
Jリーグのプロ選手とは異なり、FC伊勢志摩の選手たちはサッカーだけで生計を立てているわけではありません。彼らは全員、日中は別の仕事を持つ「デュアルキャリア」アスリートです。
例えば、地元伊勢市出身のフォワード、西口亮城選手は、市内の真珠加工会社で働いています。また、2023年シーズンの東海リーグでMVPと得点王に輝いたフォワードの濱田竜輝選手は、明和町の福祉施設で介護の仕事をしています。彼らの日常は過酷です。平日は午前中に約2時間という限られた時間でトレーニングを行い、午後からはそれぞれの職場へと向かいます。練習がない日には、一日中仕事に励みます。
クラブの理事長である小倉隆史氏も、選手たちのひたむきな姿勢に敬意を表しています。
「練習をやって、それから仕事へ向かう。そんな毎日を送りながら、もっと上のレベルでプレーしたいと努力する彼らの姿は、本当に尊敬できます。よく頑張っていますよ」
元日本代表・小倉隆史が理事長。レジェンドが集うクラブの素顔
このクラブの舵取り役が、元サッカー日本代表の小倉隆史氏であることは、驚くべき事実の一つです。彼は現在、クラブの運営法人理事長を務めています。さらに驚くべきは、2024年から監督職を退き、理事長職に専念するという決断を下したことです。現場の指揮は新監督の金守智哉氏に託し、自身はクラブの長期的な成長と経営に集中する体制を築きました。
クラブの創設者もまた、サッカー界のレジェンドです。2013年、地元出身で小倉氏と共に「四中工三羽烏」として名を馳せた中田一三氏が、「スポーツと自然環境を生かす町づくり」を掲げ、地域活性化プロジェクトの一環としてこのクラブを立ち上げました。選手たちが働きながらプレーするクラブのトップに日本サッカー界の重鎮たちがいるのは、彼らが単なるサッカーの成功だけでなく、地域貢献(まちづくり)という壮大なビジョンを共有している証なのです。
歓喜と涙の先に掴んだ初優勝。劇的な挑戦の軌跡
FC伊勢志摩のJFLへの道は、平坦ではありませんでした。2021年、クラブはJFL昇格まであと一歩に迫ります。全国の地域リーグ王者が集う「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ」で、1次ラウンドから決勝ラウンドまで全6試合を無失点で戦い抜くという偉業を達成。しかし、JFLチームとの入れ替え戦で2-3と惜敗し、選手たちは涙を呑みました。
この悔しさをバネに、真珠加工や介護の仕事を続けながらトレーニングに励んだ選手たちは、ついに大きな成果を手にします。2024年(2023年シーズン)、クラブは東海リーグ1部に昇格して9年目にして、念願のリーグ初優勝を飾ったのです。過去の heartbreak を乗り越えて掴んだこのタイトルは、デュアルキャリアを続ける彼らの不屈の精神を象徴する、まさに歴史的な快挙でした。
ホームタウンは「11市町」。地域と共に歩むクラブの理念
多くのサッカークラブが単一の市をホームタウンとする中、FC伊勢志摩の活動拠点は非常にユニークです。彼らのホームタウンは伊勢市や志摩市だけでなく、鳥羽市、松阪市などを含む三重県中南勢地域の11市町に及びます。
クラブが掲げる公式な行動目的は、「スポーツを通じて三重県・中南勢地域に夢と感動を創出し人づくり・まちづくり・自然に貢献する」こと。この理念が示すように、彼らのアイデンティティは一つの都市ではなく、広大な地域社会全体を代表することに深く根ざしています。彼らはサッカーを通じて、この地域に一体感と誇りを育む存在なのです。
Jリーグへの道は想像以上に険しい。知られざる「サッカーピラミッド」の構造
FC伊勢志摩がJリーグにたどり着くまでの道のりは、私たちが想像する以上に長く、険しいものです。彼らが悲願の初優勝を遂げた東海社会人サッカーリーグ1部は、Jリーグから数えると下のカテゴリーに位置する地域リーグです。
ここからJFLへ昇格するためには、まずこの東海リーグで優勝し、その先に待つ全国の地域リーグ王者たちが集結する「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ」を勝ち抜かなければなりません。この過酷なトーナメントで上位2チームに入って初めて、JFLへの昇格権を得ることができるのです。この構造を理解すると、彼らが成し遂げたリーグ優勝の価値と、その先に待ち受ける挑戦の大きさが改めてわかります。
終わりに
日中は真珠や福祉の現場で働き、午後はプロを目指してボールを蹴る選手たち。彼らを導くのは、地域貢献という大きなビジョンを持つサッカー界のレジェンド。そして、その挑戦を支えるのは、11市町にまたがる広大な地域社会。FC伊勢志摩は、過去の悔しさを乗り越え、ついに地域リーグの頂点に立ちました。
彼らの挑戦は、単なる試合の結果を超え、地域社会の夢そのもの。リーグ王者として次のステージに挑む彼らは、今度こそ悲願のJFL昇格を掴み取ることができるのか。スタジアムで彼らの試合を観る時、あなたの目には何が映るでしょうか。
以上です。
ご一読ありがとうございました。


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