はじめに:活気があるのに勝てないチームの共通点
「練習中、グラウンドには威勢のいい声が飛び交い、一見すると活気にあふれている。しかし、試合の肝心な場面でミスが重なり、なぜか結果がついてこない――。」
このような「声は出ているのに停滞している」状況に悩む指導者や選手は少なくありません。実は、強いチームとそうでないチームを分けるのは、声の大きさではありません。単なる「盛り上げのための声出し」と、プレーの質を変える「戦術的な言葉」には、決定的な違いがあります。
スポーツコミュニケーション・コンサルタントの視点から言えば、チームを強くする最短ルートは、何気なく使っている言葉の「基準」を再定義することにあります。本記事では、プロの現場知見に基づき、チームの未来を書き換えるコミュニケーションの本質を解き明かします。
「ナイス!」は声援ではなく、チームの「基準」である
サッカー選手の宇都木峻氏は、トレーニング中に飛び交う「ナイス」という言葉が、実はチームの**「当たり前のレベル(基準)」**を定義していると指摘しています。
ここで重要なのが、陸上競技の第一人者である為末大氏が提唱する概念です。組織において、「どこを目指すか(目標)」よりも「何が当たり前になっているか(基準)」が重要であるという考え方です。
もし、チーム内での「ナイス」が、誰にでも言えるような軽いものだったり、その時々で基準がブレていたりすると、選手は無意識に「この程度のプレーで合格なんだ」と妥協し始めます。結果として、気づかないうちにチーム全体の基準が低下するリスクを招くのです。
「ナイスの基準は人それぞれ違うので、様々であっていいと思うが、チームとしての『ナイス』は揃っていた方が良い……その基準の高さとチームの強さは比例する。」(宇都木峻)
「何がナイスなのか」という認識が揃い、そのレベルが高く保たれているとき、チームの地力は必然的に底上げされます。
「声」を出すな、「言葉」を投げかけろ
ラグビー指導者の飯塚淳平氏は、グラウンドでの発信を「声」と「言葉」に明確に分類しています。
- 声: 反応系(返事)、気合系(「しゃー!」「おりゃー」)、命令系(「放れ!」)
- 言葉: 指示系(「〜してほしい」)、伝達系(「ここにいるよ」)
ここに、多くのチームが陥る「罠」があります。スキルのあるチームほど、「4列パス」などの練習において気合系の「声」だけでそれっぽく見えてしまい、盛り上がりも良いため、質の高い練習をしていると錯覚しがちです。しかし、それでは**「声を出すこと」が目的化してしまい、肝心のスキル向上を阻害している**可能性があります。
特に夏場の練習など、暑さで集中力が切れやすい場面では注意が必要です。集中力の欠如は、プレーの質の崩壊だけでなく、大きな怪我や安全性の低下に直結します。
だからこそ、「自分のプレーの質を高めるための準備」としての言葉が不可欠です。パスが来る前の「〇〇、ここいるよ」「まだ持ってて」「セットできてるよ」といった具体的な「言葉」が、仲間のプレーを補完し、練習のクオリティを劇的に高めるのです。
良いプレーには「具体性」を、悪いプレーには「思いやり」を
プレーの精度を左右するのは、コミュニケーションの密度です。元ラグビー日本代表の小野澤宏時氏は、ラグビーという競技を**「スイカ割り」**に例えてその重要性を説いています。
ラグビーはボールを前に投げられず、後ろを向いている仲間にパスを繋がなければなりません。しかもボールは楕円形で、どこに転がるか予測不能です。この「後ろを向いている仲間に情報を送る」という競技特性上、他競技以上に言語情報の比重が圧倒的に高いのです。
良いプレーへのフィードバック
良いプレーに対しては、「何がナイスだったか」を細分化して伝えます。
- 質: 「今のパスのスピード、相手の胸元に完璧だったよ」
- 視野: 「逆サイドのスペースの空きを見逃さなかったのがナイス」
- 姿勢: 「あの場面で迷わずチャレンジした姿勢が最高だ」 このように具体性を伴ったフィードバックが、チーム内に「良いプレーの共通認識」を定着させます。
ミスへの「やさしさ(=伝わる工夫)」
ミスが起きた際、「なんでできないんだ!」と責めるのは最悪の手です。小野澤氏は、相手に伝わるための歩み寄りを「やさしさ」と表現します。 「今の俺、どうすれば良かった?」「パス遠かった?」「今のタイミングだと分からないから、次は早めに声をかけて」
ニッコリと微笑んだり、相手の体に触れたりしながら、**「相手が受け取りたくなる言い方」**で会話をする。この「伝わるための工夫」こそが、コミュニケーションの精度、ひいてはプレーの精度を決定づけるのです。
一人ひとりの「違い」を認めることが、対話のスタートライン
チームの基準を揃える一方で、忘れてはならないのが個々の「DNA」の違いです。名将エディー・ジョーンズ氏は、選手を型にはめるのではなく、「個々の性格や状況を徹底的に観察すること」をコーチングの極意としています。
ジョーンズ氏は、選手の特性に合わせてアプローチを驚くほど変えています。
- アマナキ・レレイ・マフィ選手: 指導を最小限にし、入院先へW杯の日程を記したジャージを届けることで「必要とされている」という安心感を与え、パフォーマンスを引き出した。
- 山田章仁選手: あえて代表スコッドから外すことで、自分勝手なプレーを捨て、「チームファースト」の意識を自覚させた。
- 五郎丸歩選手: その才能を完全に開花させるまでに、実に4年もの歳月をかけて対話を積み重ねた。
全員を平等に扱うことが正解ではありません。個々の性格、能力、考え方を深く観察し、その瞬間の彼らに最も響く「言葉」を選択する。個々の違いを認めた上でのアプローチが、結果的に組織としての爆発力を生むのです。
結論:今日から「言葉」でチームの未来を書き換える
「言葉」が変われば、チームの文化が変わります。そして文化が変われば、結果は必ずついてきます。強いチームを作るために、明日から以下の3点を意識してください。
- 「ナイス」の基準を高く保つ: 安易な称賛で妥協せず、チームとしての「当たり前のレベル」を底上げする。
- 「声」を「言葉」に昇華させる: 反応や気合だけの発信を卒業し、プレーを補完する具体的な指示・伝達を増やす。
- 「伝わるやさしさ」を持つ: ミスを責めるのではなく、相手が受け取りやすい「伝え方の工夫」を徹底する。
組織の強さは、日々の練習で交わされる言葉の蓄積そのものです。
あなたが今日、仲間にかけた「ナイス」には、どんな基準が込められていましたか?

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