ピラティスは今や、世界中のフィットネススタジオで人気のプログラムです。しかし、その本質がどれほど知られているでしょうか。ピラティスとは、結局ヨガのようなものでしょう?——もしあなたがそう思っているなら、その本当の力を見過ごしているかもしれません。
この記事では、プロのインストラクターや理学療法士の知見に基づき、ピラティスのイメージを覆す5つの意外な真実を解き明かします。
戦場のリハビリから生まれた「実践的な学問」
ピラティスが現代的なフィットネススタジオで生まれたと思われがちですが、その起源は全く異なります。実は、第一次世界大戦中にジョセフ・ピラティス氏が、負傷した兵士たちのために考案したリハビリテーションメソッドが始まりです。兵士たちはベッドに寝たままの状態でもエクササイズができるように設計されていました。
ピラティス氏は自らのメソッドを「Contrology(コントロロジー)」と名付けました。これは、自分自身の「体、心、精神」を完全にコントロールするための学問という意味です。単なる美容やフィットネスのトレンドではなく、身体機能を深く理解し、意のままに操るための実践的な学問、それがピラティスの原点なのです。
ピラティスは、ジョセフ・ピラティスさんが戦争で負傷した兵士のリハビリのために始めたものです。元々は『コントロロジー(Contrology)』=自分の体を自分の意志でコントロールする学問と呼ばれていました。
「ヨガと似ている」は誤解:目的と呼吸法の決定的な違い
ピラティスとヨガはしばしば混同されますが、その目的とアプローチには明確な違いがあります。
- 目的の違い: ヨガの主な目的は、ポーズや瞑想を通じて心を落ち着かせ、精神的な安定を得る「マインドセット」に重きを置くことが多いです。一方、ピラティスはより「実践的」であり、身体機能を改善し、体を正確にコントロールすることを目指します。動きながら精神を整えていくことから「動く瞑想」とも呼ばれています。
- 呼吸法の違い: 呼吸法も対照的です。ヨガでは、リラックス効果を高めるために副交感神経を優位にする腹式呼吸が主です。対してピラティスでは、体幹を安定させるために胸式ラテラル呼吸を用います。これは、息を吐ききった時のお腹が**“きゅっ”と内側に締まる感覚をキープしたまま呼吸を続けることで、インナーマッスルを常に意識し、動きの中でも体の軸をぶらさずに保つことができるのです。
体の不調の根本原因にアプローチ:「動かす」と「動かさない」の哲学
国民生活基礎調査によると、女性が抱える身体の不調のトップ2は「肩こり」と「腰痛」です。ピラティスは、これらの不調の根本原因にアプローチする独自の哲学を持っています。
その核となるのが、「動かさない部分(安定させるべき関節)」と「動かす部分(可動性を高めるべき関節)」を明確に区別するという考え方です。これは「Joint by Joint Theory(ジョイント・バイ・ジョイント・セオリー)」という理論に基づいています。
ピラティスでは、動きすぎて痛みの原因となりやすい腰椎(腰の骨)のような関節の「安定性」を高めることを目指します。同時に、固まりがちな胸椎(背骨の真ん中)や股関節の「可動性」を向上させるのです。
たとえばゴルフや野球で腰を痛める方は、ひねり動作を腰だけで行ってしまう傾向にあります。ピラティスは、腰を安定させたまま、本来その役割を担うべき胸椎を使って体をひねるように再教育します。これにより、痛みの対症療法ではなく、不調を引き起こす動きの癖そのものを根本から改善していくのです。
日常生活に潜む危険:あなたの姿勢が悲鳴をあげている
そして、この「動かす・動かさない」の哲学が現代人にとって決定的に重要なのは、私たちの日常生活そのものが、この原則を破壊する危険に満ちているからです。具体的なデータを見てみましょう。
- 座り姿勢の負担: 意外にも、立っている時よりも座っている時の方が腰への負担は大きくなります。立位の負担を100%とすると、座位は140%、さらにデスクワークなどで**前傾姿勢になると185%**にも跳ね上がります。
- 「テキストネック」の衝撃: スマートフォンを見るために頭を傾ける姿勢は、首に想像以上の負荷をかけています。シミュレーションモデルによると、頭の角度が0度の場合の首への負荷は5〜6kgですが、30度傾けると18kg、60度では、その負荷はなんと27kgにまで達します。これは、小さな子供を常に首に乗せているのと同じ状態なのです。
ピラティスは、このような無意識の負担に対して、自分の体を正しく保つための意識と制御能力(モーターコントロール)を高めます。これこそが、ジョセフ・ピラティスが提唱した「コントロロジー」、つまり自分の体を意のままに操る学問の現代的な実践なのです。
アスリートが実践する理由:本当の「動ける体」を手に入れる
テニスの錦織圭選手やフィギュアスケートの羽生結弦選手など、世界のトップアスリートたちがトレーニングにピラティスを取り入れているのには、明確な理由があります。
彼らの目的は、単に表面的な筋肉(アウターマッスル)を鍛えることではありません。体の深層部にあるインナーマッスルを強化し、**コアスタビリティ(体幹の安定性)**を極限まで高めることにあります。
錦織選手は長時間の試合での集中力維持と怪我予防のために、羽生選手はフィギュアスケートに不可欠な体幹の安定性、柔軟性、そして美しい姿勢を維持するためにピラティスを活用し、それが4回転ジャンプの成功率向上にも繋がっていると言われています。
強固で安定した体幹は、下半身が生み出すパワーをロスなく腕や脚の末端に伝えるための土台となります。この「効率の良い体の使い方」は、アスリートだけのものではありません。日常生活においても、無駄な力みのないスムーズな動きを可能にする「動ける体」を作り、日々の動作を楽にしてくれます。
結論:ピラティスで、自分の体の「主治医」になる
ピラティスは、単なるエクササイズではなく、自分の体を深く理解し、意のままにコントロールするための「実践的な学問」です。戦場で生まれたリハビリテーションが、現代人のデスクワークやスマホ姿勢と戦うための最高のツールとなったのです。知らず知らずのうちに身についた悪い癖や、痛みの原因となる姿勢を根本から見直すための、最高のツールと言えるでしょう。
あなたは今日、自分の体を正しく使えていますか? ピラティスは、その答えを見つけるための最高の近道かもしれません。
以上です。
ご一読ありがとうございました。


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